サステナブルな食の力で社会貢献したい。「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2023」で大賞を受賞した持続可能なレストランの挑戦
「FOOD MADE Good Japan Awards 2023」大賞 PIZZERIA GTALIA DA FlLIPPO

店舗展開とともに広がるサステナブルな活動

私は、2012年、東京練馬区の石神井公園で「PIZZERIA GTALIA DA FlLIPPO(ピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ)」をオープンしました。初めは15坪の小さなお店でしたが、現在は30坪に拡大し、練馬区の武蔵関駅近くに2号店となる「OPPLA'! DA GTALIA(オップラ ダ ジターリア)」もできました。
また、コロナ禍で商店街に空きテナントが出たので、小売のマーケットと料理人たちが学べる立ち飲みバーを始めました。愛媛県四万十川の源流にある「水際のロッジ(四万十川源流 森の国)」のレストランのプロデュースにも取り組んでいます。
心がけているのは、サステナブルなレストランであること。これらの取り組みが評価され、「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」で三ツ星とBEST調達賞を受賞し、さらに「FOOD MADE Good Japan Awards 2023」では大賞をいただくことができました。店のメンバーや、関わりのある農家さんたちとの努力が認められたことは、大変嬉しく、励みにもなっています。
今につながる活動のきっかけとなったのは、2019年に「下北ジオダイニングin 横浜菜の花」dでスペシャルシェフを務めたことです。同イベントは青森県下北半島の料理人のみなさんとコラボレーションし、下北の食材をふんだんに使った料理を楽しんでいただくことで、下北の魅力を伝え、守っていこうというものです。その後、国境離島の五島列島を守るための食の取り組みへと活動が広がりました。国境に接する離島に人が住み続けることは、日本の領海や排他的経済水域の保全にもつながる重要なことです。そのために食の力で何ができるかを考えました。
当初はここまで活動が広がるとは思っていなかったのですが、繋がりのできた農家さんたちが、野菜を作るだけでなく、地域のコミュニティをしっかりと考えて活動している姿を見て、私も社会的な視野が広がっていったんです。店の利益を出すだけでなく、食を通じてどのような社会貢献ができるのかを真剣に考えながら活動を続けています。
健康を考えた食事へのこだわり。3つのルートから野菜を仕入れる

当店ではお客さま一人ひとりが満足できるように、スタッフ全員でメニューを考え、健康的でおいしい食事を提供することを目指しています。それを支える大切な野菜は、主に3種類あります。まず1つ目は、地元練馬の農家さんから直接仕入れる野菜、また地方でしっかりとした農業を行っている農家さんたちとも連携して、無農薬・無化学肥料の自然栽培や有機栽培の新鮮な野菜を仕入れています。2つ目は、本来の自然の栄養を蓄えた健康に良い野菜です。ヨモギの新芽、山菜、きのこなどを使ったピッツァは、「薬膳ピッツァ」と呼ばれるほど健康的です。自然素材をふんだんに使うことで、健康的な食事を提供したいと考えています。3つ目として、これらで調達がまかなえない食材については、イタリアから直接仕入れるものもあり、この場合は本場の味としてお客さまに届けています。
飲食店として、健康を意識しているお客さまに満足していただけるような食事を提供する一方で、健康にあまり関心がないお客様にもアプローチしていかなければなりません。ポテトフライも手に入った時全ては難しいのですが無農薬の芋も入れています。これにより、子どもたちがポテトフライを楽しみながら、自然の野菜の味にも気付いて、少しずつ健康的な食事に興味を持ってくれるといいなと思っています。
未利用魚の活用の取り組みをスタート

今、特に力を入れているのは未利用魚の活用です。現状、漁獲方法の関係から混獲されてしまうものの市場価値が低く、従来は捨てられたり、食用として活用されていなかった未利用魚・低利用魚と呼ばれる魚や、海の砂漠化とも呼ばれる磯焼けを引き起こす海藻などを食べてしまう魚が増えているという課題があります。これらの課題を市場のトップの人たちが現場の状況を理解しておらず、他にも、「魚が減っている」「季節がずれている」「漁師が少なくなっている」といった重要な問題に対して具体的な対策を取っていないという声を漁師さんたちから聞きます。
その解決に向けて何かできないかと思い、先日、唐津漁港に行き、地元の方々とサステナブルな魚の利用について話し合いました。地元では、昔から未利用魚を日常的に食べる文化があります。その知識を学びながら、地元で未利用魚を加工し、飲食業界に広めるためにどのような活動ができるのかの準備を、企業と連携して進めています。
そこで混獲されてしまって現状捨てられている未利用魚の中で高級魚のノドグロの稚魚もあり、この活用というお題をいただいたので、ノドグロは手間をかけてフライやそのまま魚醤にしています。他にも日本には、未利用の多くの魚種があり、食用にするためにさまざまな実験が行われています。醤油屋さんに聞くと、いろいろな魚種を工場で発酵させる取り組みが進んでいるそうです。日本には既に発酵文化が根付いているので、ゼロから始めるのではなく、すでに日本にある食文化を基に新たなアプローチを試みていきたいです。
発酵文化をはじめ、日本は深い食文化を持つ国ですが、その良さに自分達が気づいていない部分があると感じます。フレンチやイタリアンのレストランで醤油や味噌を使わなかったり、昆布茶が一般的なメニューに入っていないこともその一つ。海外のシェフたちからも、「日本の食文化は素晴らしい。お手本を見せてほしい」と言っていただくことが多いので、その期待に応えたいですね。
薪窯の灰を再利用。適度な間伐で森の活性化につなげる

環境への配慮については、ピザを焼く薪窯(まきがま)に間伐材を使用していますが、現状の広葉樹の間伐材とともに今後は針葉樹も使用したいと考えています。天然資源の薪を熱源を使うことが環境破壊につながるのではないかと心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、適度な間伐は風通しを良くし、木々が十分な光と栄養を得られるようになるので、森が健全に成長するのを助け、倒木や病害虫の被害を減らします。薪の使用が減少した日本ではどうしても森林が過密になってしまうので、間伐材を行うことで山の老朽化を食い止め、近年よく耳にする山崩れの原因の解消になるのです。
薪を燃やした時に出る灰は、数年前まではお金を払って産業廃棄物として処理していましたが、今は当店のスタッフの畑で、生ゴミの堆肥と混ぜて肥料として活用したり、店舗で使用しているお皿を作る時の融液(ゆうえき)の原料として薪窯の灰を使っていただいて、この灰を再利用することで資源を無駄にしないようにしています。
家族に誇れる仕事を。これからも食で社会と環境に貢献したい

私のやりがいは、家族が喜んでくれること。彼らに誇れるように、これからも飲食業を通じて社会や環境に貢献していきたいと思います。そして、よく、レストラン経営は難しいと言われますが、さまざまな農家さんと連携できるので、都市でもサステナビリティに配慮したレストラン経営ができることを伝えていきたいですね。また、肉体的にも精神的にも厳しい飲食業界のイメージの向上と社会的地位の向上に努めていきたいと思います。飲食業界には多くの問題を解決できる可能性があり、成長できる分野なので、これらの課題解決を一緒に推進してくれる優秀な人材が飛び込んできてくれるような魅力的な業界にしていきたいです。
▪️日本サステイナブル・レストラン協会からのメッセージ
PIZZERIA GTALIA DA FlLIPPOの岩澤シェフ、チームの皆さんは、現在はサステナビリティに配慮したレストランとしてどのように実施すればさらに推進することができるかを一緒に考え行動するとても頼もしい仲間です。しかし彼らが最初からサステナビリティを理解して実施をしていたわけではありません。我々SRAのグローバルなサステナビリティの基準を少しずつ理解し、地道にサステナビリティに向き合い、それは何かを考えて行動してきたからこそ、環境や社会課題解決に向けて取り組みを行うことができるようになってきているのです。そして実施していく上で重要なのは、レストランで提供される食事がとても美味しく、そして楽しく食事をすることができること。PIZZERIA GTALIA DA FlLIPPOでは、サステナビリティに配慮している食材が美味しさとトレードオフの関係ではなく、本来の自然の栄養を蓄えた健康的で美味しい食材であることを教えてくれる場所にもなっています。またそこで働くスタッフが幸せに働くことができているからこそ、楽しい場所として提供することができると思います。サステナビリティについて日々進化をしているPIZZERIA GTALIA DA FlLIPPOを是非体験してみてください。
【店舗情報】
PIZZERIA GTALIA DA FlLIPPO(ピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ)
https://hitosara.com/0032029305/
◎住所
東京都練馬区石神井町2-13-5 グリーンハイム 1F