1. サステナビリティ
  2. SRA-J協会監修コラム
  3. 連載:プロが語る「電化キッチン」の現実と未来|第2回

連載:プロが語る「電化キッチン」の現実と未来|第2回

業務用IHコンロとは?家庭用との違い・選び方・コスト比較

2026年3月、業務用厨房の電化が必要とされる理由と方法に関するレポート、「GUIDE TO ELECTRIFYING YOUR KITCHEN HIGHLIGHTS 」(厨房の電化の手引き)*1 が公開されました。

このガイドブックを元に電気の専門家の観点でレビューできればと思います。

▶ この記事を書いた人:やなぎん(エネルギー業界歴15年)

前回はIHとガスコンロを比べながら、どっちを選ぶべきかを考えてきました。今回はもう一歩踏み込んで、業務用IHコンロそのものの話をします。家庭用とは何がどう違うのか、どんなタイプがあるのか、価格はどれくらいで、実際に入れたらいくら戻ってくるのか。経営判断に直結するところを、できるだけ具体的にまとめました。

業務用IHコンロと家庭用IHの違い

「IHコンロ」とひとくくりに語られがちですが、家庭用と業務用はほぼ別物だと考えてください。家庭用IHは1.4〜3kW程度の出力で、単相100Vか単相200Vのコンセントがあれば動きます。対して業務用IHコンロは3kWから、機種によっては10kWを超えるものまであり、単相200Vや三相200Vの電源工事が必要になることも珍しくありません。

この違いは数字の上だけの話ではありません。飲食店の厨房は、ピーク時に複数の鍋を同時に強火で使い続けるという、家庭とはまったく違う酷使のされ方をします。家庭用IHを業務で使おうとして、火力が足りない、すぐ保護機能が働いて止まってしまう、というトラブルは実際によく起きます。業務用はこうした連続稼働・高負荷に耐えられるよう、最初から設計が違うのです。

サポート体制の差も見逃せません。家庭用は家電量販店の保証が中心ですが、業務用厨房機器は専門メーカーが作っていて、設置工事から定期メンテナンス、故障時の出張修理まで一貫した対応が受けられるのが普通です。パナソニックやマルゼン、ホシザキといった厨房機器メーカーは、長年にわたって飲食店向けの加熱機器を作り続けてきた実績があります。

業務用IHコンロのタイプ

設置方法で見ると、業務用IHコンロには大きく三つのタイプがあります。一つ目は卓上型。既存の調理台にそのまま置けるコンパクトなタイプで、初期費用を抑えたい店や、限られたスペースに導入したい店に向いています。一口から二口まであり、小規模店やテイクアウト専門店でよく見かけます。

二つ目は据置型、いわゆるフロアスタンディング型です。床に直接置く大型タイプで、複数口のバーナーを備え、ガスコンロのレンジ台をそのまま置き換える形で導入されることが多いです。中規模から大規模の厨房、複数メニューを並行で調理する業態に向いています。三つ目はビルトイン型。調理カウンターに埋め込むため見た目がすっきりして、清掃性も高いのが特長です。新規出店や大規模リフォームのタイミングで選ばれることが多いタイプです。

どれを選ぶかは、今の厨房レイアウトや調理動線、予算によって変わってきます。大がかりなリフォームを伴わずに導入したいなら卓上型から始めて、様子を見ながら据置型やビルトイン型へ段階的に移行する、という方法も十分に現実的です。あわせて知っておきたいのが、複数の機器を1台に統合した多機能タイプの存在です。フライヤー・グリドル・スチームを1台でこなす多機能調理ステーションや、サラマンダー・電子レンジ・グリルの機能を併せ持つラピッドクックオーブンなど、業務用ならではの選択肢が増えています。機器の台数自体を減らせるので、厨房スペースの省力化にもつながります。

業務用IHコンロを導入するメリット

メリットについては前回かなり詳しく書いたので、ここでは要点だけ振り返ります。エネルギー効率がガスの約3倍と高く、掃除の手間が大幅に減り、直火がないので火災やガス漏れ、一酸化炭素中毒のリスクがなくなります。燃焼によるNO₂やベンゼンの放出もないので、スタッフが働く厨房の空気環境も良くなります。

自分のレストランでは、ガスコンロの清掃に24分かかっていたのが、IHなら21秒のふき取りで終わる。それだけで年間3万豪ドル以上の人件費削減になった。

ルーク・バージェス(Scholé オーナーシェフ、オーストラリア)/GCC「Making the Switch」(2025年)

詳しい解説は前回の記事に譲るとして、今回はもう一歩踏み込んで「実際にいくらかかるのか」「本当に元が取れるのか」という、経営判断に直結する数字を見ていきます。

価格相場と初期費用の目安

業務用IHコンロの価格は、タイプと出力でかなり幅があります。卓上型の単機能モデルなら数万円台から導入できるものもありますが、業務用厨房に求められる耐久性・出力を備えたモデルだと、一口あたり十万円台からが目安です。複数口の据置型や、コンビオーブンと一体化した多機能型になると、機種によっては百万円を超えることもあります。

ここで大事なのは、機器本体の値段だけで判断しないことです。電源工事、既存ガス設備の撤去費用、換気ダクトの改修費用、IH対応の調理器具への入れ替え費用まで含めた「総導入コスト」で比較する必要があります。英国HESSが行った調査でも、機器単体の比較だけでは見えてこない結果が出ています。パブと中華テイクアウトの事例では新規導入時の電気機器一式がガス機器一式よりむしろ安く済んだ一方、インド料理店のケースでは電気フライヤーや電気ブラットパンの価格が高めで、電気機器の方が約93万円高くなっていました。業態や機器構成によって初期費用の優劣は変わる、ということです。

業務用IHコンロのランニングコストとROI

HESSは、実際に稼働している飲食店3業態——パブ・中華テイクアウト・インド料理店——のキッチンで、機器ごとの電力消費をサブメーターで計測しました。電気代の単価だけでなく、清掃・換気・保険・メンテナンスまで含めた総コストを比較した、かなり精度の高い実測データです。

結果は、180席のパブで年間およそ186万円、150席の中華テイクアウトで約94万円、もっとも条件が厳しいとされた90席のインド料理店でも約55万円のエネルギーコスト削減。3業態すべてで削減という結果でした。特にインド料理店のケースは興味深く、電気フライヤーや電気ブラットパン(大型の煮込み鍋)はガスよりエネルギーコストが高くなる傾向があり、単純な比較だと削減効果は小さく見えます。ところが、清掃コストやメンテナンス費、保険料といった「ガス関連の隠れたコスト」まで含めて計算すると、話が変わってきます。

エネルギーコスト削減(年間55万円)に、清掃・メンテナンス・保険・換気などのガス関連コスト削減(年間約178万円相当)を足すと、年間の総節減額は約233万円。5年間で見ると、設備投資コストを含めても電化の方が約1,250万円安いという計算になりました。投資回収期間の目安は、改修の場合で3〜4年というのがHESSの調査から見えてくる傾向です。新規出店や大規模改装のタイミングであれば、初期費用の差自体が小さくなることが多く、さらに早期の回収が期待できます。

ここまで紹介したのは英国の事例ですが、エネルギー効率の向上や清掃コストの削減といった効果の構造自体は、国や地域が変わっても基本的に同じです。電気料金やガス料金の水準、為替レートが違うので絶対額はそのまま当てはまりませんが、「業務用IHの方が長期的には有利になりやすい」という傾向そのものは、日本の飲食店にも十分参考になる結果だと思います。

業務用IHコンロを選ぶときに確認したいこと

ここまでの内容を踏まえて、実際に選定する際のポイントを整理しておきます。まず必要な出力です。kW数は現在の調理量やメニュー構成に対して十分かどうかを、感覚ではなく実際の使用状況から逆算してください。次に電源工事の要否。単相200Vか三相200Vか、分電盤の容量に余裕があるかは、早めに電気工事業者に確認しておくべき項目です。

口数についても注意が必要です。「今ある台数」をそのまま電気に置き換えるのではなく、「実際に使っている台数」を基準に検討してください。HESSの調査では、60〜70%の店舗でバーナーの台数を減らしても調理能力に支障がないという結果が出ています。IH対応の調理器具への入れ替えコスト、メーカーの保証期間とアフターサービス体制、ガス設備の撤去費用や換気ダクトの改修費用まで含めた総予算——このあたりまで含めて見積もりを取ると、後で慌てずに済みます。自治体や電力会社の補助金・助成金制度も、合わせて確認しておく価値があります。

特に電源工事は見落とされがちなポイントです。三相200Vの引き込みが必要な場合、物件によっては電力会社との契約変更やキュービクルの設置が必要になることもあります。検討段階で、早めに電気工事業者や厨房機器メーカーに現地確認を依頼することをお勧めします。

耐久性とメンテナンス体制も比較しておきたいポイントです。業務用厨房機器は毎日長時間の連続稼働が前提なので、家庭用とは部品の耐久設計そのものが異なります。メーカーによって定期点検プランや部品供給の体制に差があるので、購入前にアフターサービスの内容を具体的に確認しておくと安心です。地域によっては出張修理に時間がかかるメーカーもあるため、近隣に代理店やサービス拠点があるかどうかも、地味ですが重要なチェックポイントです。

IH対応の鍋を選ぶときのポイント

業務用IHコンロへの切り替えで意外と見落とされがちなのが、調理器具側の対応です。IHは電磁誘導で鍋底を発熱させる仕組みなので、磁性を持つ素材でなければ反応しません。鉄製の中華鍋、ステンレス(鉄芯入り)の寸胴鍋、ステンレス製のフライパンは問題なく使えますが、純粋なアルミ製品や銅製品、土鍋、ガラス製の鍋は対応していません。

注意したいのは「ステンレス製だから大丈夫」と思い込むケースです。ステンレスにも磁性があるものとないものがあり、鉄芯(クラッド構造)が入っていないオールステンレス製品の中にはIH非対応のものも存在します。購入前には必ず「IH対応」の表記を確認するか、メーカーに直接問い合わせてください。中華料理店では中華鍋の買い替えが必要になるケースが多く、寸胴鍋を多用する業態では、その入れ替えコストも事前に見積もっておく必要があります。鍋底が丸い中華鍋は、IH対応の中華鍋用プレートを併用するか、平底タイプに買い替えるのが一般的な対応です。

よくある質問

中古の業務用IHコンロでも問題ないかという質問はよくいただきます。業務用厨房機器の中古市場は一定の規模があり、主要メーカーの中古品も流通しています。ただ保証期間が短い、または保証自体がないケースが多いので、購入前の動作確認と、可能であれば一定期間の保証が付くかどうかの確認はしておいた方がいいでしょう。

卓上型から始めて、後から据置型に変更できるかという質問も多いです。これは可能で、実際にまず卓上型を試験的に導入し、スタッフの習熟度や調理品質を確認した上で、本格的な据置型・ビルトイン型に進む飲食店も少なくありません。既存のガスコンロと併用できるかについても、もちろん可能です。中華の強火炒めなど一部の調理だけガスを残し、それ以外をIHに切り替えるハイブリッド構成を採る飲食店も多くあります。

まとめ

業務用IHコンロは、家庭用とは出力も電源も耐久性もまったく違う、業務用厨房機器です。価格だけ見ると業務用の方が高く感じるかもしれませんが、エネルギーコストや清掃コスト、メンテナンス費まで含めたトータルで見ると、多くの業態で数年以内に投資回収できることが実測データからわかっています。次回の最終回では、実際にキッチンをIH化する際の具体的な8つのステップと、東京での成功事例を詳しくご紹介します。

この記事を書いた人:やなぎん

img_bff7efff_005_c53273.png

業界歴15年のプロフェッショナル。複雑で分かりにくいエネルギーの仕組みを、家庭の「お財布」と「地球」の両方に優しい視点で噛み砕いて解説するのが得意。難しい専門用語を高校生でも分かる例え話に変換して、みんなの節電ライフに寄り添う、親しみやすさNo.1のベテラン女性。

*1 GUIDE TO ELECTRIFYING YOUR KITCHEN HIGHLIGHTSについて

本ガイドは、英国および世界中の外食産業事業者向けに、サステイナブル・レストラン協会(TheSustainable Restaurant Association)が、グローバル・クックセーフ・コアリション(Global CooksafeCoalition)およびホスピタリティ・エネルギー節約・持続可能性協会(Hospitality Energy Saving &Sustainability)と共同で作成したものです。

GUIDE TO ELECTRIFYING YOUR KITCHEN HIGHLIGHTS 概要およびダウンロード
一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会webサイト
https://foodmadegood.jp/20260401_gcc/

出典:The Sustainable Restaurant Association / Global Cooksafe Coalition / HESS「Making the Switch: Why and How to Electrify Your Commercial Kitchen」(2025年)
Home | The Sustainable Restaurant Association
Home - Global Cooksafe Coalition (GCC)

SRA-J協会監修コラムの一覧へ