脱炭素の未来戦略:企業・技術・政策の最新動向
脱炭素とは?基礎から理解する

脱炭素とは、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出を抑制し、最終的にゼロに近づける取り組みを指します。近年、気候変動の深刻化に伴い、世界中の政府や企業が積極的に脱炭素戦略を打ち出しています。しかし、「脱炭素」と「カーボンニュートラル」の違いや、各国の政策、技術革新が進む中での課題については、まだ十分に理解されていない部分も多いのが現状です。本章では、脱炭素の基本概念から、現在の動向、そして日本の政策について詳しく解説します。
脱炭素とカーボンニュートラルの違い
「脱炭素」と「カーボンニュートラル」は混同されがちですが、厳密には異なる概念です。脱炭素とは、可能な限りCO2排出を削減することを指し、排出量をゼロに近づけることを目指します。一方、カーボンニュートラルとは、排出したCO2を植林や炭素回収技術(CCS)などで相殺し、トータルの排出量を実質ゼロにすることを指します。つまり、脱炭素は削減のプロセスに重点を置くのに対し、カーボンニュートラルは結果としてのゼロバランスに焦点を当てています。
脱炭素が求められる背景と世界の動向
地球温暖化の進行により、世界各国が温室効果ガスの削減を急いでいます。特に、2015年に採択されたパリ協定では、産業革命以前と比べて地球の平均気温上昇を世界共通の長期目標として2℃目標に設定、さらには1.5℃に抑える努力を追求することを掲げました。この目標を達成するためには、世界のCO2排出量を急速に削減する必要があり、各国政府が政策を打ち出しています。
また、欧州連合(EU)では「グリーンディール」として、2030年までに排出量を1990年比で55%削減する計画が進行中です。アメリカでもバイデン政権が脱炭素化を推進しました。具体的には、2022年にバイデン政権が成立させたインフレ抑制法(IRA)です。IRAは脱炭素投資を減税等で支援する法律で、再生可能エネルギーやEV産業への投資が拡大しました。しかし、トランプ復権の状況を踏まえると、トランプ氏や共和党はIRA、特にEVを購入する消費者への減税措置を強く批判しており、IRA廃止をトランプ大統領が狙う可能性は十分にあるため、今後の動向には注意を向ける必要があります。中国は2060年までにカーボンニュートラルを実現する目標を掲げています。このように、脱炭素は国際的な潮流となっており、日本も例外ではありません。
日本の脱炭素政策の現状と課題
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標に掲げています。具体的には、「2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを、地球温暖化対策推進本部及び米国主催の気候サミットにおいて表明しました。この目標の達成に向け、再生可能エネルギーの普及、次世代型火力発電の導入、炭素回収技術の開発が進められています。
しかし、日本の脱炭素化にはいくつかの課題があります。まず、エネルギー供給の多くを化石燃料に依存している点が挙げられます。再生可能エネルギーの割合は増加しているものの、安定供給の課題が依然として残ります。また、企業の取り組みも重要ですが、コスト面や技術的なハードルが障壁となることもあります。
さらに、電力の脱炭素化だけでなく、産業界や輸送部門における排出削減も不可欠です。例えば、EV(電気自動車)の普及や水素エネルギーの導入が求められています。このように、日本が脱炭素を実現するためには、産業構造の変革や技術革新、政策支援が不可欠です。
企業の脱炭素戦略:最前線の取り組み

製造業の脱炭素化:サプライチェーン全体の変革
製造業では、CO2排出量を削減するための取り組みが進められています。再生可能エネルギーの導入、省エネ技術の活用、サプライチェーン全体での脱炭素化が求められています。特に、鉄鋼業や化学産業では水素利用技術の研究が進められており、将来的なCO2削減が期待されています。工場においては、スマートファクトリーの導入によるエネルギー効率の最適化が進められ、省エネルギー技術が活用されています。
また、製品のライフサイクル全体を通じた脱炭素も重要視されています。企業は、サプライチェーン全体での排出量管理を強化し、原材料の調達段階から最終製品の廃棄までのプロセスを見直しています。
建築・不動産業界の脱炭素への挑戦
建築業界では、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の導入が進み、エネルギー消費を抑えた建築物の普及が進んでいます。また、不動産業界では、グリーン電力の利用や低炭素建材の活用が求められています。さらに、スマートシティの構築により、エネルギーの効率的な利用を目指した都市設計が進められています。
小売・サービス業での脱炭素推進事例
小売業やサービス業でも、LED照明の導入やエネルギー効率の高い店舗運営が進められています。特に、大手小売チェーンでは、再生可能エネルギーを活用した店舗づくりが増加しています。物流においても、配送車両のEV化や最適化が進められ、カーボンフットプリントの削減が図られています。
最新技術が拓く脱炭素の未来

次世代再生可能エネルギーとその可能性
脱炭素社会の実現には、次世代の再生可能エネルギー技術の発展が不可欠です。太陽光発電や風力発電に加え、洋上風力や地熱発電、水素エネルギーの活用が進んでいます。特に水素エネルギーは、火力発電や輸送部門での活用が期待されており、グリーン水素の生産技術が急速に発展しています。
また、蓄電技術の向上も重要なポイントです。再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されやすいため、高性能な蓄電池の開発が進められています。リチウムイオン電池の改良や全固体電池の開発により、エネルギーの安定供給が可能になりつつあります。
脱炭素に貢献する革新的な素材と製造技術
産業界では、脱炭素を加速させるための革新的な素材や製造技術の開発が進んでいます。例えば、低炭素排出型のセメントや、CO2を吸収するコンクリートの研究が進められています。また、バイオプラスチックやリサイクル可能な新素材の開発により、製造業全体の環境負荷を低減する取り組みが広がっています。
さらに、3Dプリンター技術の活用による素材ロスの削減や、CO2を直接回収し新たな資源へと変換する技術も注目されています。特に、カーボンリサイクル技術は、排出されたCO2を有効活用する手段として、多くの企業が研究を進めています。
カーボンキャプチャー&ストレージ(CCS)の実用化
CCS技術は、大気中のCO2を回収し、地中に貯留する技術であり、特に大規模な工業施設や発電所での導入が進められています。現在、世界各国でCCS技術の実証実験が行われており、日本でも国内の産業インフラに適用する研究が進んでいます。
さらに、カーボンリサイクルと組み合わせることで、回収したCO2を新たな燃料や化学製品に活用する技術も開発されています。このような革新的な技術の実用化が、今後の脱炭素社会の実現に大きく貢献すると期待されています。
私たちにできる脱炭素アクション

日常生活で取り入れられる脱炭素行動
個人ができる脱炭素行動として、省エネルギーの実践が重要です。例えば、LED照明の利用、エアコンの温度設定の見直し、エネルギー効率の高い家電の導入などが挙げられます。また、再生可能エネルギーを利用する電力会社と契約することで、間接的にCO2排出の削減に貢献できます。
さらに、移動手段を見直すことも脱炭素の一環です。公共交通機関の利用、自転車や徒歩での移動の増加、EV(電気自動車)やカーシェアリングの活用などが有効です。食生活においても、地産地消や食品ロスの削減を意識することで、環境負荷を軽減できます。
企業・自治体と連携して脱炭素社会を実現するには
個人だけでなく、企業や自治体との協力も脱炭素社会の実現には欠かせません。地域での再生可能エネルギーの導入、スマートシティ構想の推進、エコな消費行動を支援する施策への参加などが求められます。
また、企業側も、環境に配慮した製品やサービスの提供を進め、消費者と協力して持続可能なビジネスモデルの確立を目指しています。脱炭素に関する正しい情報を得ることも重要であり、自治体や企業が開催するセミナーやワークショップに参加することも有益です。
環境に優しい消費者行動の選び方
消費者としてできることの一つに、環境負荷の低い商品を選ぶことが挙げられます。例えば、エコラベル付きの商品を購入する、プラスチック製品の使用を減らす、リサイクル可能な製品を選択するなどが効果的です。
また、ファッション業界でもサステナブルな取り組みが広がっており、環境負荷の低い素材を使用した衣類を選ぶことも脱炭素の一環です。日々の消費行動を意識的に変えることで、持続可能な社会の実現に貢献できます。
これからの脱炭素社会と課題

2050年に向けたロードマップ
世界各国は2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げており、日本もこの動きに沿った政策を推進しています。エネルギー転換の加速、産業の低炭素化、交通インフラの変革など、多方面での取り組みが必要とされています。
特に、日本では再生可能エネルギーの拡大に加え、エネルギーの安定供給を維持しながら経済成長を支える政策が求められています。脱炭素社会の実現に向けたロードマップを着実に実行することが重要です。
脱炭素における技術革新とそのハードル
脱炭素化を推進する技術の発展は目覚ましいものの、その普及にはコストや規制の課題が伴います。特に、再生可能エネルギーの導入コストやCCS技術の実装には多額の投資が必要であり、政府の支援策や規制緩和が求められます。
また、新技術の普及には消費者の意識改革も重要です。環境負荷の低い選択を促すための教育や啓発活動も、今後の脱炭素戦略の一環として欠かせません。
経済・社会と脱炭素のバランスをどう取るか
脱炭素社会の実現には、経済成長と環境保護のバランスを取ることが重要です。企業の競争力を維持しながら、持続可能な社会を築くためには、政策的な支援や新たなビジネスモデルの確立が不可欠です。
今後は、政府、企業、消費者が一体となって取り組むことで、経済的な発展と環境負荷の低減を両立する社会を目指すことが求められます。
参照
・2020年以降の枠組み:パリ協定 ❘ 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html
・バイデン撤退と気候変動対策―次期削減目標は不透明 脱炭素投資法は存続か― ❘ 電力中央研究所
https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/research/publications/view?indexId=1583
・第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組 | 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/1-2-3.html